nano factoryブランドにて、TKK8000/8500系の3Dプリントモデルを販売中ですが、これらは従来からある板状キットと同様、糊代に接着剤を塗布して張り合わせるものでした。


従来方式

凸状の糊代に接着剤を塗布して張り合わせます。接合は接着剤の硬化によって行います。
この組立方法自体は問題ないのですが、直角・平行を出して組み合わせたり、接着剤のはみだしに気を付けたり、また、接着剤の乾燥時間が必要だったりと、それなりに慣れや時間がかかるものでした。


スナップフィット方式

接着剤による接合のデメリットを解消し、簡単・確実に組み立てられるようメーカー各社も改良を重ねており、近年では、素材の弾性力を活かしてフック状のレバーを引っ掛ける方式や、ピンをピン穴にはめ込み相互の摩擦力によって接合するプレスフィット方式などがメジャーになりつつあります。

鉄道模型では一体成型品が多いこともあってあまり普及しておりませんが、カプラーやアンテナ等の各種付属パーツの取付方法はスナップフィットの一種といえるでしょう。

接合方式


nano factoryでも検討はしていたものの、接合ピン・ピン穴の設計が別途必要で手間がかかるため採用を見送っておりましたが、一部3Dプリント製品で出力時に反りが大きい場合があり、従来式の接着剤張り合わせ方式では面倒な場合があったため、この度スナップフィット式モデルを試作してみました。


こちらがその接合ピン付の3DCAD図面です。
前面+側面+屋根板です。

分解モデルです。
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上のモデルを接合した様子
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接合ピンを側板および妻板に取り付け、これらと直角に交わる屋根板にピン穴を設けています。
妻板に片面4か所、側板には片面15か所もの接合ピンを設けております。
側板に接合ピンを多用したのは、3D出力時の素材の反り対策の1つです。

広面積で3D出力した際に屋根板や側板が反りやすい場合があり、従来方式では反った屋根板と側板を接着剤のみで接合するのに難がありました。
一応熱湯やドライヤーで矯正してから組み立てれば従来方式でも十分綺麗に組めるのですが、屋根板と側板は直角に交わるため、相互を物理的に拘束できれば反り対策にもなる、というわけです。

実際に出力した結果がこちらです。
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設計にあたっては、確実な接合のために細部に気を使っております。
ピンは先端に向かってテーパーを付けて挿入しやすく設計しており、ピン穴もピン径より0.05mm大きく設計。ピン穴も厚みをある程度確保して適度に摩擦が働くよう設計します。
アクリル素材の場合、サポート材が付いてしまうため表面が粗くなり、ピン径とピン穴のサイズが同等だとまず嵌まりません。

逆にピン穴が大きすぎると接合できずにすぐ外れてしまうため、このあたりの匙加減は台車製作時に何度もこの手の設計を調整した経験が生きました。
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ピンとピン穴の摩擦力でも十分剛性を確保できますが、組みあがったら接合部に流し込みタイプの瞬間接着剤を塗布して補強します。
といっても、表面に流れ出にくい箇所に塗布するため、はみ出しを気にすることなく塗布できるのは精神衛生上気が楽ですね。

スナップフィット式の採用により、1両当たりの組立時間が

組立10分+乾燥時間⇒組立2~3分

と大幅に短縮されました!
効果絶大ですね……

外からの見た目は従来方式の製品と全く変わりありません。

なお、今回は8000系2次車更新車の試作品も兼ねております。
サフを吹いてディテールを観察してみます。
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2次車特有のランボード無・後方アンテナ跡有の姿もリアルに再現。
乗務員扉上の水切は誤って有のまま出力してしまいましたが、実際にはありません。
製品版では修正されます。

更新車特有の前面裾部アンチクライマーも美しいディテールで表現。
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東横ラストナンバーの8017Fの再現にもってこいの一品となることでしょう。

8500系も同様にスナップフィット式試作品を作成しておりますが、こちらは以前30F10次車タイプを出力した際、誤ってデハ8500を破損させてしまったため、その代替として製作しています。
そのため、デハ8500としては唯一の10次車仕様で出力しております。

ヘッドライトケースも別パーツ化。
こちらの別パーツ化は要望も多く、これにより帯の塗り分けがやりやすくなりますね。
ただし、GMの完成品ヘッドライトケースよりも穿孔径が小さいので、別パーツ化した弊社ヘッドライトケース(製品付属)の使用が前提となります。

というわけで、このスナップフィット式は8000系2次車更新車より採用予定です。
現在9・10月発売予定品が遅延していますので、それらと合わせ11月中の発売を予定していおります。

品質面で妥協することなく、確実な製品をお届けするために時間を要してしまいますが、気長にお待ちいただきますよう、どうかご協力よろしくお願いいたします。